Episode11 心療内科の穏やかな先生

学校を不登校になった私は心療内科へ通院することになりました。

私が通うことにした心療内科は元々祖父が前立腺がんを患いうつ病になった時に通院していた病院で、祖父からとても穏やかな先生だと聞きました。

ちょっと不思議な先生で石をコレクションするのが好きらしく、祖父が通院していた頃は石を持ってくるように言われ、それを使ったカウンセリングを受けていたそうです。

祖父はよく私のことを心配してくれて、祖父が勧めてくれた病院だから抵抗無く通ってみようと思えました。

頑張って学校へ登校して帰宅すると家の居間にはいつも水戸黄門や相撲を観ている祖父が居て、私に学校どうだった?と声を掛けてくれました。

何てことない他愛もない会話を少し交わすだけですが、自然体で体調を気遣ってくれる何気無い祖父とのやり取りはとても心地よかったです。

自分がご機嫌の時にしか優しくしてくれない父からは貰えなかった無償の温かさや優しさを感じられる機会がこうしてあったからこそ、私は完全に壊れずに済んだのだと思います。

病院はもともと城下町だった地域に建てられているため道路は一方通行が多く複雑。初診時の通院は祖父が道案内をしてくれ、一緒に着いてきてくれました。

病院の中に入ると、さっそく待ち合い室に先生のお気に入りの石コレクションが棚に並べられていました。

色が綺麗な珍しい石と言うよりは、どこにでも落ちていそうな凡庸な石。

きっとこの石には先生にしか分からない魅力や美しさがあるのだろうなと思いました。

先生の診察はとても穏やかで治療として眠れてますか?ご飯は食べられてますか?と日常生活の様子をがつがつと聞き取るようなお堅い雰囲気は無く、ちょっとした豆知識を教えてくださったり、他愛のない雑談をしたりと心が温かくなるような一時でした。

一番印象に残っている豆知識は、なぜ海は青く見えるのかというお話でした。

水分子には赤い光を吸収して青い光を散乱する性質があり、海のように深さが増すと、その傾向が強くなるため青く見えるという原理だそうです。

私はそのお話を聞いて、お風呂で入浴剤の入ったお湯を手で掬っても透明にしか見えないのに、深い浴槽の中のお湯は着色して見えるのと似ているのかな?と尋ねたところ、先生は「応用が利いてますね」と褒めてくださいました。

当時コミュニケーションが苦手だった私にとって自分の気持ちや感想を相手にちゃんと伝えることが出来たことがとても嬉しかったです。