Episode10 本当の理由は言えなかった

父がいつ怒鳴るか分からない生活といじめに疲弊した私は次第に活力を失っていき、高校2年生に上がると不登校になってしまいました。

昼過ぎに起き、遮光性の強い重たいカーテンを全て閉めきった薄暗い部屋で動画を漁りながらご飯を食べ、気付けば夕方になり日が落ちた頃に夕寝をして、お父さんが眠りに就き怒鳴られることのない一日が終わったと安堵した深夜から私はヘッドフォンをしてパソコンの世界に没頭する。

週に一回くらいは学校へ登校していましたが丸一日登校する元気は無く、遅刻や早退を繰り返していました。

ですが、こんな不登校や自堕落な生活に対して父から何のお咎めも無い訳がなく、父がお酒を飲んで不機嫌に帰宅した深夜にいきなり部屋の灯りを付けて無理矢理に理由を問い詰められました。

「なぜ学校に行けないのか?」

私は本当の理由が言えず、学校で友達と上手くコミュニケーションが取れない、同じクラスにいじめの加害者がいて落ち着かない、生理が重いなど理由を述べました。

それに対して父は

これから社会に出れば苦手な人間関係でも頑張らなきゃいけない時なんていくらでもある。

生理に関しては言い訳にしか聞こえない。

私の理由は世間に通用しないといった感じに理解されませんでした。

生理も重かったので言い訳だと言われて悲しかったですが、最も悲しかったのは

「いじめって今いじめられてる訳じゃないんでしょ」

と、言われてしまったことでした。

この言葉は高校の担任の先生にも全く同じことを職員室で言われました。

いじめは加害されなくなったら終わりではなく、被害者はずっと加害者からされたこと、言われたことを背負って時に思い出しては傷付きながら生きていくのです。

しかも、教室にはまだ加害者が居座っており、いつまたいじめられるか怖くて気など休めたものではありませんでした。

私の苦しい気持ちは間違っていない。

ずっと胸に秘めて持っている気持ちです。

自分の思う考える気持ちはどんなものでも胸の内に秘めて持っておいていいんです。

父や担任がいじめは終わったものだと否定してきても、心では「いや、私は本当に苦しかったんだ。」時が経った今でもそう思っています。

お酒が入っているのも相まって父は激昂してついに私にこの家を出ていけと言い出しました。

でも、本当のことを言ったら父は逆上してもっと酷いことになるので他の理由をあてがうしかありませんでした。

(もちろん他の理由と言えど、友達と上手くコミュニケーションが取れないのもいじめも生理が重いのも当時の悩みでした。)

家庭環境が崩壊していることは学校で起きていることではないので、直接的な不登校や引きこもりの原因に結び付きにくく他に原因を求めがちですが、一番安心できるはずの家庭という居場所が毎日戦場のようなのですから、精神が休まらなくて学校や会社へ行く気力が減ってしまうのは当然だったように思います。

父の機嫌を損ねないために、自分をこれ以上傷付けられないために、本当は父が怒鳴る環境に疲れたという根本の原因を隠して不登校になったお前が悪いという父の言い分を受け入れるしかありませんでした。

それから、とにかく私は何とか留年を免れるために各教科の単位を落とさないよう、休める授業は休んで単位の少ない保健体育の授業や家庭科の授業などは必ず出席するようにして、単位表とにらめっこしながら日々を凌いでいました。

母も父の機嫌をこれ以上損ねないよう、私の体調の心配はしてくれつつも、単位を落とさないように毎日私を学校へ送り届けました。

もう身も心も既にぼろぼろだったので、屍を運ぶかの如く母の運転する車に揺られて学校へ通学するのです。

言葉の暴力は目に見えた傷を作りません。

父の面前DVが止まない荒れた環境下で私は怪我が治らないどころか、また怒鳴られて傷口に傷を重ねるような思いをしながら単位を落とさないよう頑張って学校へ登校しました。

幼少からピシピシと軋轢音を立てていた身体のどこかが、無理をするたびにもっと大きな音を立ててひび割れるのを感じました。