Episode06 弱った心に付け入る悪魔(後編)

中学生にもなるといじめの加害者達は不良の先輩付き合いなども増えお金を消費する機会が多くなり、私はお菓子ではなく金銭を要求されるようになっていきました。

私が遊びという名目で金づるとして呼び出され嫌々ながら加害者宅へ足を運ぶと、空になったお酒の缶や部屋に立ち込める煙いタバコの匂いが私を出迎えます。

要求される金額は2000円から5000円ほど。

後から請求できるよう記帳もしていなかったので貸した…というか渡した金額も不明ですが、合計10万くらいはいっているかと思われます。

金銭を要求される形は様々。

加害者達が先輩と遊ぶお金がないからと現金をそのまま渡すこともありましたし、飲食店で全員分を奢らされる、香水などの物を買わされることもありました。

一番つらい思い出として残っているのは加害者と仲の良い先輩達が開催するライブのチケット代を全員分支払わされた時のことです。

ライブのチケット代を要求されることは言わずもがな、いつも加害者と遊ぶ時はあらかじめお財布に多めのお金を持ち歩くのです。

自分のためにじゃないですよ、加害者のためにです。

お金が足りなければどんな罵倒や嫌がらせを受けるか分かったものではありません。

ライブ当日、加害者達は他に用事があって私一人を先に最寄りの駅へと向かわせたのですが、方向音痴な私は住宅街で道に迷ってしまい、乗る予定だった電車の時刻に間に合いませんでした。

不良である加害者達も先輩付き合いには気を遣わなくてはいけないので、電車の時刻に間に合わなかったことは加害者達の逆鱗に酷く触れてしまいました。

私は「は?何やってんだよ」「ふざけんな」「使えない奴」と駅で散々に怒鳴られ、責められ、豆粒のように萎縮しながら駅の待合室で小さく肩をすぼめていました。

ですが、しばらく私が落ち込んでいると、見るに見兼ねた加害者の主犯格は激怒していた態度を一変させ、急に私に優しく接してきたのです。

過ぎたことはしょうがない。

せっかくのライブなんだから楽しもう。

と、私の肩を叩いて励まします。

おかしいと分かっているのに、加害者のご機嫌が治ったことに安堵してしまいました。

加害者の気分で私を貶したり褒めたりするのはおかしいと頭では理解していても、私にとっては今にも壊れてしまいそうな自分を守るため、刹那の優しさに縋るしか無かったのです。

そう言えば父も怒鳴っていたかと思えば、何事も無かったかのように機嫌が良くなる人でした。

面前DVと精神的虐待に晒されて歪んでしまっていた私は正しい判断力失い、父が怒鳴らないなら、いじめの加害者が攻撃してこないならそれで幸福なのだと感じる脳味噌になってしまったのです。

支配され、怯えていればいるほど、たった1%の優しさが希望の光にすら見えてくるのです。

そんなガラクタみたいな優しさに喜ぶ自分を思い出すとつらい気持ちが込み上げてきます。

その後も金銭を要求される頻度は上がっていき、私の心は限界に達しました。